「プリンキピア続編」
第四部 月面クレーター形成の真のメカニズム

科学ジャーナリスト
邱 国寧 博士
(Guoning Qiu Ph.D.)
guoningqiu@aol.com 

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月面クレーターは隕石の衝突によりできたものではない

月面の様々なクレーター

月面の最大な特徴はやはり無数に散在するクレーターである。月のクレーターは直径1ミリメートル以下のものから1300キロメートルを超えるものまで数え切れないほど存在している。そして、月面に直径1キロメートル以上のクレーターがなんと30万個以上もある。

クレーターの形成について今のところは隕石の落下によって作られたとされている。しかし、これは明らかの誤解だと思われる。なぜなら、現実上にはあれほどの隕石が月面に落下する可能性と確率はほぼゼロに近い。

そもそもクレーターが隕石の衝突によって形成されるいわゆる「隕石衝突説」がどのように確立したか。

  1. 月面のクレーターは1609年にガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei, 伊, 1564-1642)によって初めて確認された。
  2. 17世紀から19世紀の間はクレーターが火山と同じメカニズムで形成されたいわゆる「火山説」が主流だった。
  3. 19世紀後半に、クレーターは隕石のような堅いものがぶつかってできたという「隕石衝突説」を唱えている人が現れた。しかし、この説はなかなか当時の人に受け入れられなかった。
  4. この影響を受けたアメリカの地質学者グローブ・ギルバート(Grove Gilbert, 米, 1843-1918)が実験を繰り返した。彼はボールを粘土に投げたり、ピストルで砂や粘土に向かっていろいろな角度から発砲したりしても同じような形の窪ができることに気づいた。しかも、これら窪の形はクレーターによく似ている。そして、これを根拠に、かれは1893年に「隕石衝突説」を正式に提唱した。しかし、「隕石衝突説」がやはり人々に支持されなかった。
  5. 20世紀初頭に、「火山説」と「衝突説」を支持する人が入れ混じりながら、勝負は五分五分と分かれるようになった。
  6. 1949年に作家であるラルフ・ボールドウィン(Ralph Baldwin)が第二次世界大戦で爆弾の砲撃によりできるクレーターと月にあるクレーターの形がよく似ていると指摘し、そして、地質学者達も相次ぎ「衝突説」に同調し始めた。やがて、いつの間に「隕石衝突説」が判定勝ちとなり、今に至った。
ガリレオ・ガリレイによって作成した月のスケッチ

このように並べてみとる、「隕石衝突説」の確立にいかに根拠が不十分だと言うことをうかがい知ることができる。しかし、いまでは教科書、専門書、百科全書には「隕石衝突説」があたかも真理のように扱っている。

17世紀〜19世紀にかけ、天文学に関する知見は日々更新され、月にクレーターの存在も確認できるようになった。しかし、当時の望遠鏡の性能では、確認されたクレーターの数が極めて少なかった。また、砂や粘土にボールを投げるなり、ピストルで発砲なり、爆弾で砲撃なりする行為は、隕石が硬い月面と衝突する行為とは一緒に比較することに無理がある。

写真技術やメディアが発達しなかったため、科学者達がクレーターの情報をスケッチを通して公表する方法しかなかった。つまり、月のクレーターの本当の姿を目にする人の数も少なかった。更に、「隕石衝突説」が提出した当時には、月面にこれだけ数え切れないほどクレーターの存在も知ら内だけでなく、1ミリメートル以下のクレーターの存在も当然想像できない。これは実際に月に上陸してから確認できたことである。

惑星が太陽との距離とその公転速度との関係

実際に隕石が月に落下する確率を考えてみることにする。太陽系には各天体が一定のルールに制約されて回転している。惑星を含むすべての天体の回転速度はその天体の大きさ(赤道半径)や密度と関係なく、太陽との距離によって決められている。つまり、天体の飛行速度が決まれば、その天体が太陽系にある軌道の位置も決まると言うことである。そして、太陽から遠ざかって行くにつれて、天体の公転速度が遅くなる。 地球の衛星も同じ原理である。

つまり、月に落下できる隕石は、まず太陽系におき、地球の公転軌道で回転する速度を持ち、同時に地球の衛星になり、月の公転軌道と同じ回転速度を持たなければ、隕石が月と遭遇する機会がない。また、例えこのような条件がそろえたとしても、隕石は必ずしも月と衝突すると限らない。

宇宙開発のおかげで、人類はスイングバイ航法という新しいテックニックを手に入れた。スイングバイとは、天体の引力を用いて宇宙船や探査機の速度や軌道などを変える航法の事である。従って、隕石が月へ向かうときに月引力及び地球の引力によって軌道が修正させられて、月の近辺からすり違って通り過ぎていくか、地球や月の引力に捕まえられて月、或いは地球の衛星になる確率の方が高く、また、地球の引力が月の引力より遙かに大きため、隕石がむしろ地球に落下する確率の方が大きい。

更に、月は公転している地球の周りに回るため、月の太陽系上の軌道は地球の内側と外側での蛇行型で移動するかたちをしているため、いくら宇宙の歴史が長いとは言え、単なる偶然のきっかけで月にあれだけ数のクレーターを作るための隕石が落下したと言う考えはナンセンスである。

月面クレーター形成の真のメカニズム

月面上に大量なクレーターはどんなものよりどのように作られたのか。その答えは月面の情報から知ることができる。

月の表面を構成する玄武岩、斜長岩、角礫岩などの岩は熱が加えられることによってできたものである。つまり、月の形成初期或いは形成段階において、月全体が熔岩のみの星という状態にあるか、少なくでも月の表面全体が溶岩に覆われていたことが示された。この状態をマグマオーシャンと言われる。

マグマオーシャンである月が冷え込むに連れて、先に融点の高い玄武岩、次に融点の低い斜長岩が順次に固形化していく。月の重心が偏っていると言うことは、月形成の溶岩状態から完全に固形化までの段階において、外的引力の影響が働き続けた可能性が極めて高い。この外的引力の影響で、先に固形化した比重の高い玄武岩は引力方向に寄せ集め、海に浮かぶ原油のようにマグマオーシャンの上に薄く広がって固め、月面上に「海」を形成した。

マグマオーシャンの段階の月は、月面に覆われた溶岩の温度は数千度から数万度と推定され、高温低圧の環境下で溶岩に含まれる揮発点の低い物質が蒸発、或いは昇華して気体となり、月面上に大気が形成された。大気温度の相違により、上昇気流と下降気流が発生したり、これら一連の気象現象は月面大気に風や嵐をもたらした。更に、大気は密度と比重が高いため、風のポテンシャルが大きく、比較的大きいものも簡単に巻き上げられる。

緩やかな海底噴火

蒸発、或いは昇華して気体となった気化成分が上空で冷却され,結晶になって雪や、雹のように月面に降ってくる。そして、地下爆発、噴火があった場合、生じる噴出物,火山灰、乱石などは月面の上空に飛び交い、嵐は、これら大気に浮かれている物体を激しく入れ混じり、衝突、粉砕、混合など様々な気象現象を繰り返した。

その結果、大きな物体は比較的に早く月面に落下し、小さいものは濁っている河水のように大気の構成成分として大気中に漂い、最後に冷え込んだ月面にレゴリスとして静かに落下した。つまり、こられマグマオーシャン段階で発生した月面の気象状況によりできた空から降ってくる物体こそが月面にある無数のクレーターを形成させた真の容疑者である。

グローブ・ギルバートの実験では粘土にものを投げるとクレーターと似た形状の窪を作った。この経験から一つのヒントが得られる。それは粘土という半固体の状態であった。つまり、完全な液体の場合では、たとえ衝撃があったとしても、流動性により元通りに回復して痕跡が残らなくなる。一方,完全に固形化した地面では,可変性がないため大きな衝撃があっても、痕跡が殆ど残らない。しかし、半固体状態では可変性を持ちながら流動性がないため、衝撃があった場合に跡としてそのまま残すことができる。

実験で再現したクレーター

マグマが固形化する過程には粘度が高まり、表面張力が低くなるという半固体状の段階がある。この段階において,下から気泡が上がってきたり,或いは,衝突物が上から落ちたりすると,跡が形成されやすく,しかも,この跡はマグマが完全に固形化するまでの間に大きな変形が起きずに,記録として残された。

つまり、クレーターとはマグマが半固体状のステージにおき、空から降ってきた物体、マグマオーシャンの海底から浮き上がってきた気体などいろいろな衝撃によって作ったものである可能性が極めて高い。

月面のクレーター分布パターンも当推論の正しさを証明している。海を構成する玄武岩の融点が高いため、早い段階に固形化した。それが原因で、海に物体が落下しても安易にクレーターが生成しないため、月の海にクレーターが少ない原因である。

また、半固形化状態といってもいろいろな段階があり、同じ大きさの物体でも、作るクレーターの大きさと形が全く違う。比較的に柔らかい段階では、可変性が高いため、小さい物体の落下でも大きいクレーターを作ることができる。また、落下の反動とか、とばっちりとかにより、二次クレーターも形成しやすくなる。一方、比較的に固い段階では、可変性が小さいため、落下物体が作るクレーターのサイズが小さくなっていく。場合によっては、落下物体と同じ大きさのクレーターしか作れない。こればおそらく月面に存在する微細クレーターの成因だと考えられる。

半固形化したマグマオーシャンの膜(岩層)が薄かったときでは、地下のマグマの流動により、膜が寄せ盛り上がったり、膜が割れて谷ができたりする。また、比較的に大きい物体が落下することにより、膜が破壊されて、クレーターを形成した後に、マグマが再びクレーターを充填したりして、いろいろな地形を作っている。

また、海底噴火や噴煙があった場合には、たとえそれが短いものであっても、長期間噴火し続けたとしても、当然、いろいろな円形的な地形が形成される。また、マグマオーシャンの海底ではいろいろな原因でできた気泡が下から浮き上がっていると、バブルのような特徴的な窪みができる可能性がある。その他、マグマオーシャンの海底構造に深浅の差、或いは温度差、月の秤動現象なども月面に特徴的な地形を形成される。

つまり、クレーターをはじめとする月面の地形は、月面のマグマオーシャンが半固体状態から完全に固形化する間の月の形成、進化に当たって起きたいろいろな気象現象を記録したものだと推論できる。

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当論文は2000年11月15日付けで日本国文化庁にて第一公開年月日の登録を行いました。(登録番号 第17591号の1 )
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